一人親方は社会保険(健康保険・厚生年金)加入が義務?判断のポイント

建設業などで独立して一人親方になる場合、運転資金、事務所、作業車などは、事前準備の段階で比較的しっかりと手配できているものです。一人親方は会社に所属していないため、一人親方特別加入制度による労働者災害補償保険、いわゆる労災への加入は任意であって義務ではありません。

ですが、平成29年度から国土交通省が労働災害時に保障を受けられる適切な社会保険に加入していない者に建設現場への入場を許可してはならないと元請け業者に通達しているのをご存知でしょうか。

一人親方は社会保険に入らないとダメなのか?

まず、国民健康保険(国保)は個人に負った怪我や病気を補償するもので、労災は労働中(通勤時を含む)の怪我、労働を原因とする病気を補償するものと用途が分かれているため使い分ける必要がああります。

一人親方が仕事中に怪我をした場合、元請に雇用されているわけではありませんが実態はそれに準ずるため原則としては元請が責任を負い労災の申請をします。

ですが、ここで注意したいのは元請が依頼した一人親方の怪我に対して責任を負うのは「原則として」であり「完全」にではありません。
裁判にまで至るケースでは一人親方側の責任と判断されることも有りうるのです。

自分は一人親方として元請に依頼されて仕事をしているのだから、何かあっても元請の労災が適用されると思っていると大変なことになりかねません。
ですから、自分自身がきちんと労災に加入してもしもの時に備えておく必要があります。

事業所が社会保険に加入するルールとは?

社会保険には、いくつもの種類があります。大きく分けると、医療保険、年金、労働保険の3つがあります。

医療保険はさらに健康保険、国民健康保険があり、年金には、厚生年金保険、国民年金の2つがあります。ここでは、社会保険(健康保険・厚生年金について解説します。

個人事業主には加入ができない

個人事業主は、常時5人以上の労働者を雇用しているか、それ未満の労働者を雇用しているかで線引きされています。

個人事業主の場合は、5名以上の従業員を雇用している場合にのみ、加入義務が発生します。
一人親方は、従業員を雇用しない働き方なので、社会保険(厚生年金・健康保険)の加入義務はありません。

法人経営の場合には加入が必須

法人については、健康保険・厚生年金保険のいずれも使用する労働者数を問わず、強制適用になっています。

強制適用とは、必ず加入手続きをしなければならないことを意味しています。事業主には加入が義務付けられているわけです。

一人親方の場合は?

一人親方は、どのような扱いになるのでしょうか。

まず、明らかなことは一人親方は、労働者を雇用していません。常時5人未満の労働者を雇用するとは、最低1人は労働者がいるということを意味します。

健康保険・厚生年金保険、労災保険、雇用保険は適用されないということです。

一人親方が加入する社会保険の種類

一人親方は、労働者を雇用しない個人事業主である以上、上記の健康保険、厚生年金、労災保険、雇用保険の適用対象にならないのが原則です。

では、加入できる社会保険はないのでしょうか。ここで一人親方の働き方の実態について考えてみましょう。

「請負としての働き方」「労働者としての働き方」の2つがあります。実は、一人親方の場合、働き方の実態によって社会保険の扱いが違うのです。

請負としての働き方に近い一人親方の場合

請負とは、民法では「当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる」契約としています(法632条)。

つまり、仕事の完成を目的とした請負契約を結んで働くことになります。建設工事、運送業務などで請負という働き方があり、相手方は仕事の取引先あるいは顧客という関係になります。あくまで個人事業主であるため、前述の社会保険は馴染みません。

しかし、個人事業主を対象とした社会保険はあります。医療保険では、国民健康保険か建設連合国民健康保険組合のどちらかに加入する必要があります。

国民健康保険は、市町村と都道府県が運営する保険制度であり、自治体によって保険料や計算方法などが異なっています。

建設連合国民健康保険組合は、建設業従事者や一人親方向けに公的医療保険を運営しています。一定の要件を満たさなければ加入できず、国民健康保険にはない私傷病による休業中の傷病手当金が支給されます。

年金については国民年金に加入しなければなりません。

労働者としての働き方に近い一人親方の場合

労働基準法では、労働者とは「事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう」と定めています(法9条)。

ここでいう「使用される」とは、指揮命令を受けて労務を提供することを意味します。

実態として、一人親方が現場で仕事先の監督を受け、その指示のもとで働くなど、労働基準法上の労働者と変わらないケースはあります。その場合、労働者性が認められれば、法律上の個人事業主である一人親方ではなく、労働者と判断されます。

健康保険などの労働者の社会保険に加入する必要があり、仕事先は労働者を雇用する事業所として社会保険に加入させる義務があります。

一人親方の社会保険について知っておくことが大切

一人親方は、本来、個人事業主ですが、働き方の実態によって労働者と認定される場合があります。社会保険の扱いが全く異なるにもかかわらず、一人親方自身だけでなく、取引先なども適切な手続きをしていないケースも少なくありません。

自分自身だけでなく、支えてくれる家族のためにも、一人親方の社会保険加入について知っておくことが大切です。

労災保険に入っていなかった場合の判例

労災未加入の一人親方と元請が法廷で争った判例

マンション建設一次下請け会社専属大工Aさんは現場で被災。しかし、一人親方特別加入制度に加入しておらず労災補償が受けられなかったため元請に労災適用を求めて裁判を起こした時の判決です。

平成19年6月28日最高裁第一小法廷

  • 工事に関する工法や作業手順を自己裁量でできた
  • 事前連絡をすれば労働時間や休みを自由に調整できた
  • 他の工務店と仕事をすることを禁じられていなかった
  • 完全な出来高払いを中心に報酬を決めていた
  • 個人で所有している一般的に必要な道具類を現場に持ち込んで仕事をしていた

これらの事由により、当該大工(一人親方)が労働基準法、労働者災害補償保険法上の労働者には当たらないものとするという判決でした。

つまり元請との雇用関係は認められないので自己責任において対処するようにという判決であり、この一人親方の怪我は労働災害に当たるため国保は使えず、結果として治療費等を全額自己負担で賄うことになるわけです。

一人親方は自分が事業主で労働者ですから各種経費のやりくりを考えると義務でないなら未加入で構わないだろうと考えてしまうのでしょうが、この判例のように元請の責任には当たらないとされたら何の補償も受けられなくなります。