「労災になりますか?」「労災を使えますか?」という質問が良くあります。「労災になるでしょうか?」「労災を使えますか?」という質問は、「業務上」の災害又は「通勤」災害に該当する「負傷」、「疾病」、「障害」又は「死亡」として、労働基準監督署長が認定してくれるかという疑問をあらわれではないか思います。

ここで言う、業務上とは、業務が原因となったということであり、業務と傷病等の間に一定の因果関係があることをいいます。(いわゆる「業務起因性」。)

この「業務上(業務起因性)」を判断する前段階として「業務遂行性」を判断します。「業務遂行性」とは、事故が事業主の支配ないし管理下にあるときに発生したかということです。

なお、災害の原因や発生状況は様々です。一概に判断できるものではありません。

工事現場で資材の荷下ろし業務中に突然殴られて負傷しました。労災の適用になりますか?

一般には、業務上災害となるでしょう。ただし、暴行が被害者と加害者の個人的怨恨に基づくものや、被害者が加害者を挑発した結果である場合は、業務上となりません。。

※他人の故意に基づく暴行による負傷の取扱いについて(平成21年7月23日 基発07023第12号)
業務に従事している場合又は通勤途上である場合において被った負傷であって、他人の故意に基づく暴行によるものについては、当該故意が私的怨恨に基づくもの、自招行為によるものその他明らかに業務に起因しないものを除き、業務に起因する又は通勤によるものと推定することとする。

先日、工事現場でトラックから2人で資材を荷下ろしの際、相手が手を滑らせ、資材を私が1人で支える形となり、腰を痛めてしまいました。現在在治療していますが、このような場合、労災の適用になるでしょうか。

突然の出来事により、急激な強い力が腰にかかったことにより生じたものと考えられるので、業務上災害となるでしょう。

災害性の原因による腰痛には、業務遂行中の転落や転倒等の負傷に起因するもののほか、突発的な出来事で急激な力の作用による内部組織(特に筋、筋膜、靱帯等の軟部組織)の損傷を引き起こすようなものに起因して発症する場合もあり、このような腰
痛が、労災補償の対象として取り扱われるためには認定基準(昭 51・10・16 基発第 750号)が示されており、次に示す認定要件を満たす必要があります。
1.腰部の負傷又は腰部の負傷を生ぜしめたと考えられる通常の動作と異なる動作による腰部に対する急激な力の作用が、業務遂行中に突発的な出来事として生じたと明らかに認められるものであること。
2.腰部に作用した力が腰痛を発症させ、又は腰痛の既往症若しくは基礎疾患を著しく増悪させたと医学的に認めるに足りるものであること。
1.の要件は、腰部が常に体重の負荷を受けながら屈曲、伸展、回旋等の運動を行っており、労働に際して何らかの原因で腰部に通常の運動とは異なる内的な力が作用して、いわゆる「ぎっくり腰」等の腰痛が発症する場合があるので、単に業務遂行中ということだけでなく、災害性の原因が存在することを必要としているものです。
その事例として、重量物の運搬作業中に転倒したり、重量物を 2 人がかりで運搬する最中にそのうちの 1 人が滑って肩から荷をはずしたりしたような事故的な事由により、瞬時に重量が腰部に負荷された場合があります。

作業中に、トイレに行こうとした際、トイレ内が暗いので手探りで照明のスイッチを探していた時、段差につまずき転倒負傷しました。

トイレに行くことは、本来、業務ではありません。生理的行為等については、事業主の支配下にあることに伴う行為として業務に附随する行為として取り扱われますので、この場合には就業中の災害に準じて業務災害として認められない場合を除いて、施設の管理状況等に起因して災害が発生したかということに関係なく業務災害となります。

工事現場の気温が38度もある中で、工事現場での作業を行っていましたが、手元に水がなく、近所のコンビニまで水を買いに行った帰りに、段差につまずきつまずき転倒してケガをしてしまいました。労災の適用になるでしょうか。

近年の真夏の気温は、体温ともあまり変わらないような場合もまれではありません。
その中で戸外作業をする方が就業中に水分を必要とすることは生理的なものであり、現場に水がなければ、購入のために一時的に作業場を離れたとしても、業務放棄とみることはできないので、労災と認められるものと思われます。
しかし、作業場を離れた時間が数時間に及ぶ場合や、近くに店があるのに、わざわざ遠くの店まで買いに行くなど、合理性を欠いた場合には、認められないものと思われます。

一人親方が、資材置き場の荷覆いシートが走行中にずれたため、シートをかけなおしていた際に、被っていた帽子が風で飛ばされたため、拾おうとしたところ、前から来た自動車と接触し、怪我をしました。労災の適用になるのでしょうか。

被っていた帽子を拾おうとした行為を恣意的なものとみることはできず、反射的にとった行動であることから、運転業務に付随した反射行為を原因とするものとして、労災と認められるものと思われます。

ダンプの運転手が高速道路を走行中、交通事故に遭遇しました。事故車の中に運転手が取り残されていたので、救助を行っていたところ、後方からきた乗用車に追突され、死亡してしまいました。労災の適用になるのでしょうか。

自動車の運転に従事する者が、業務中に他の交通事故被害者の救助を行うことは、一般に運転業務に付随する合理的行為と評価することができ、業務遂行性が認められ、業務災害となるでしょう。

緊急行為は、同僚労働者等の救護、事業場施設の防護等当該業務に従事している労働者として行うべきものか否かにかかわらず、私的行為ではなく、業務として取り扱う。
業務に従事していない労働者が、使用されている事業の事業場又は作業場等において災害が生じている際に、業務に従事している同僚労働者等とともに、労働契約の本旨に当たる作業を開始した場合には、特段の命令がないときであっても、当該作業は業務に当たると推定することとする。(平成21年7月23日 基発0723第14号)

建設現場は、仮囲いをして近隣の方に迷惑をかけないようにしています。休日には仮囲いをして、工事現場に入れないようにしています。日曜日に、近隣の住民の方から、強風で工事現場の仮囲いが風であおられているとの連絡があり、休暇中でしたが建設現場に出向き、修理している際にケガをしてしまいました。労災の適用になるのでしょうか。

工事現場の防護と近隣住民の方の安全性を確保するという従業員としての必要行為であることから労災と認められるものと思われます。

突発的な事故によって工事現場に緊急の事態が生じ、工事現場の防護などについて緊急対応を要する場合は、一人親方の皆さんとして当然に行われるべきものである限り、業務遂行性があり、その行為によって負傷したときは業務起因性が認められることになりますから、労災保険給付を受けることができます。
なお、会社の近隣の住民の方が、仮にお手伝いをしているときに負傷したとしても、労災保険給付の対象とはなりません。

昼食は、ほとんどの一人親方が工事現場の休憩室を利用しています。休憩室へ行こうとした一人親方が、階段で足を滑らせ骨折してしまいました。このような昼休み時間中の事故の場合、労災の適用になるのでしょうか。

休憩中であっても、会社施設内にいる限りは業務遂行性があり、災害原因が階段で足を滑らせたという事業場施設に関係していることから労災と認められるものと思われます。

一人親方が、道路わきで休憩していたところ、運転を誤った自家用車に接触し、負傷しました。休憩場所が道路わきしかないような状況でしたが、労災の適用になるのでしょうか。

休憩が、常に交通事故の危険にさらされている施設状況で行われ、それが災害原因であることから、労災と認められるものと思われます。

昼休み中に食事のため工事現場の外 500メートルほど離れたレストランまで出かけた際にケガをしたのですが、労災の適用になるのでしょうか。

会社施設から離れた私的行為であり、労災と認められないものと思われます。

休憩時間については、一人親方が自由に行動することが許されており、その間の個々の行為自体は一人親方の私的行為といえます。
したがって、休憩時間中の災害については、それが工事現場の状況(欠陥等)に起因することが証明されない限り、一般には、業務起因性は認められません。
休憩時間中に食事のために外出してケガをしたということですから、私的行為であり、工事現場外でもあるので労災とは認められないものと思われます。

私は、最寄りの駅から遠く、公共の交通機関もないため、、元請け会社が契約した専用のワゴン車で工事現場まで通勤することがあります。このワゴン車が事故を起こした場合、労災の適用になるのでしょうか。

元請会社が提供するワゴン車による事故であり、労災と認められるものと思われます。

通常、住居と事業場との往復の間に生じた災害は、通勤災害となります。
しかしながら、質問にあるように、事業主が輸送会社等と契約して、提供したワゴン車は、事業主の提供している施設を利用していると考えられ、その移動中は事業主の管理下にあるものですから、労災と認められるものと思われます。

ただ、このような事故は、「偽装一人親方」との関連性も問題になります。

出勤時、アパートの自室を出て階段を降りるときの転倒は、通勤災害になりますか。

住居と通勤の境界は、アパートの場合、原則として自室の玄関ドアとなり、すでに通勤が開始された後の災害であるので、通勤災害となるでしょう。

「通勤」とは、労働者が就業に関し、住居と就業の場所との間を合理的な経路及び方法により往復する行為ですから、住居又は就業の場所が、それぞれ通勤の始点・終点となります。
住居については、その形態が様々ですから一様に決定するのは難しい問題となりますが、基本的には、一般公衆が自由に通行できるか否かをその基準にして判断するものです。
したがって、アパートの場合は外戸が通勤の始点・終点となるので、ご質問の場合は、外戸を通過した階段での災害であり、通勤経路上における災害と認められると考
えられます。

帰宅途中、日用品等の購入のため立ち寄った通勤経路上にあるコンビニ内での災害は、通勤災害になりますか。

通勤の経路上にある商店等で、日用品の購入を行うことは、通勤の中断にあたりますので、通勤災害とはならないでしょう。

労働者が通勤の途中に行う通勤と関連のない私的行為については、誰もが行うような「ささいな行為」を除き、一般には「逸脱・中断」とみなされ、逸脱・中断の時点から通勤として取り扱わないことになります。
ささいな行為とは、経路の近くにある公衆便所を利用する、経路上の店でタバコ、新聞等を購入する等をいい、コンビニ内で日用品を購入する行為は、「ささいな行為」とはいえないとされています。
ただし、労災保険法第 7 条第 3 項ただし書き「(通勤の経路の)逸脱又は中断が、日常生活上必要な行為であって厚生労働省令で定めるものをやむを得ない事由により行うための最小限度のものである場合は、当該逸脱又は中断の間を除き、この限りではない」と規定されています。日用品の購入その他これに準ずる行為はこれに該当することとされていますので、本件のコンビニ内での買い物後、通常の通勤経路に戻った場合には、通勤として取り扱われる場合もあります。

工事終了後、工事現場内で3時間ほど歓談して帰宅途中に電車のドアに挟まれ、けがをしました。通勤災害になりますか。

約3時間の歓談後に行われる帰宅行為は、就業との関連が失われたものとして、通勤行為と認められないため、通勤災害とはならないでしょう。

通勤災害の場合、「就業との関連性」が前提となりますから、「就業との関連性を失わせるほどの長時間」であるか否かがポイントになります。

雨天の中での木造住宅建設作業に従事していた一人親方が落雷により感電し、死亡しました。労災の適用になるのでしょうか。

屋外で作業する者が、作業中に落雷による被害を受けたものであり、業務上災害となるでしょう。

工事現場が急斜面にあり、先日、地震で工事現場が倒壊してしまい、一人親方が瓦礫に挟まれケガをしました。労災の適用になるのでしょうか。

建設現場が裏山は、急傾斜で、地盤がもろく常に崩壊の危険を有していたといえることから、地盤の崩壊による埋没という危険が常にあり、それが地震と相まって現実化したものといえます。建設現場の立地上、地理・地質的に崩壊の危険があるものが現実化したもので業務上災害となるでしょう。

仮に大地震が発生し、従業員が事務所から非難する際に負傷した場合には、労災の適用になるのでしょうか。

大地震の発生などの際に仕事の継続が困難で、身の危険を避けるために避難する行為は合理的な行為であって、業務に付随する行為となるので、それが私的な行為と認められない限りは業務上災害と認められるでしょう。
厚生労働省の通達(昭 49・10・25 基収第 2950 号)によれば、「業務行為中に事業場施設に危険な事態が生じたため、業務行為の継続が困難と判断し、危険を避けるために当該施設外へ避難するという被災労働者らの行為は、単なる私的行為又は恣意行為と異なり合理的な行為、すなわち業務付随行為であり当該避難行為が私的行為、恣意行為と認められない限り」は、業務上であるとしています。

先日、工事現場で作業をしている一人親方が、腰痛になり1か月ほど入院することになりました。労災の適用になるのでしょうか。

外傷等災害性の原因による腰痛とよらない腰痛では認定基準が異なり、ご質問の腰痛は「災害によらない」腰痛ですから、腰に負荷のかかる作業態様であったか、その従事年数などから判断することになります。

腰痛については、実際に転倒や転落などを伴って発症する災害性腰痛と災害を原因としないで発症する非災害性腰痛の二つがあります。
そのため、腰痛が業務上疾病となるかどうかについても、この二つの要素に分けてそれぞれ認定基準が示されています(昭 51・10・16 日基発第 750 号)。
非災害性腰痛に該当すると思われますので、非災害性腰痛に関する認定基準を定めています。
非災害性腰痛には、

(1)腰部に過度の負担がかかる業務に比較的短期間(おおむね 3か月から数年以内)従事する労働者に発症する腰痛

(2)重量物を取り扱う業務又は腰部に過度の負担がかかる作業態様の業務に相当長期間(おおむね 10 年以上)にわた
って継続して従事する労働者に発症した慢性的な腰痛の二つがあります。

建設工事中で、個人的にお世話になっている顔見知りの作業員が作業をしていました。自分の業務と直接関係はありませんでしたが、心情的に知らぬふりもできず作業を手伝っていたところ、ケガをしてしまいました。労災の適用になるのでしょうか。

手伝った行為を被災者の業務とみることは難しいと思われます。業務遂行性、業務起因性がないと思われ、労災とはならないでしょう。

業務災害に関する保険給付は、「業務上」の負傷、疾病、障害又は死亡に関する保険給付をいいますが、「業務上」であることを認定する際に大きく2つの要件があります。労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡をいいます。

1つ目は「業務遂行性」です。
業務遂行性とは、被災労働者(=ケガをした労働者)が労働契約に基づいて事業主の支配下にある状態のことをいいます。
労働者が事業場内で仕事に従事している場合はもちろん、休憩時間中で業務に従事していない場合でも事業場内で行動している場合は、事業主の支配下かつ管理下にあると認めらます。
また、出張や運送・配達等の外出作業中など、事業主の管理下をはなれて業務に従事している場合であっても、事業主の支配下にあることに変わりはなく、業務遂行性は認められます。

2つ目は「業務起因性」です。
業務起因性とは、負傷や疾病が業務に起因して生じたものであることをいいます。
よく問題となる案件として、過労死や心疾患等の疾病と業務との関連性が挙げられます。
これらの疾病と業務との関連性を考えるにあたっては、労働者の労働時間や業務の性質、治療を受ける機会の有無、上司との相談等により軽微な業務に転換することが可能であったか等の事情を考慮するのに加えて、労働者の日頃の習慣、体質、性格等の個人的素因も加味して判断することになります。