一人親方にとって、工事請負契約書とは?

工事請負契約書とは?

「工事請負契約書」とは、注文者が請負人に対して何らかの工事を発注し、請負人がこれを受注する内容の契約書です。

一般論としては、契約は口頭でも成立するため、原則として契約書がなくとも契約は成立します。

工事請負契約書とは、戸建て住宅やリフォームなどのあらゆる工事を発注者や元請け先から受注する際に交わす契約書のことです。受注者は建物を建てて発注者に引き渡し、発注者はその対価を支払うことを約束することが工事請負契約書の役割です。工事の規模に関わらず、すべての工事で工事請負契約書を交わす必要があります。

建設業法第18条、19条には、請負契約の原則を以下のように定めています。

◎18条:建設工事の請負契約の当事者は、各々の対等な立場における合意に基いて公正な契約を締結し、信義に従って誠実にこれを履行しなければならない

◎19条:契約の締結に際して次に掲げる事項を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない

このように、工事請負契約書を交わす際、発注者側と受注側は「対等な立場」で契約を締結しなければなりません。

また、契約書面の交付については、災害時等でやむを得ない場合を除き、原則として工事の着工前に行わなければなりません。(国土交通省「発注者・受注者間における建設業法令遵守ガイドライン(第3版)」8頁)

工事請負契約書を締結する場面の例

工事請負契約書が締結されるのは、住宅・店舗用物件・ビルなど、建物に関する工事を行うケースが多いです。例えば、

新築工事
増改築工事
改装工事
外構の整備工事
など工事の受発注が行われる際には、工事請負契約書が締結されます。

請負人の義務内容は「仕事の完成」

工事請負契約は、民法上の「請負契約」に該当するため、請負人が果たすべき義務は「仕事の完成」です。例えば注文住宅の新築工事であれば、請負人は設計書に従って建物を完成させる必要があります。

これに対して、何らかの事務の委託を内容とする「委任」又は「準委任」の場合、受任者の義務は事務を行うことそのものであって、仕事の完成は義務の範囲に含まれません。例えば「委任者のオフィスで週3回3時間ずつ作業をする」という客先常駐の準委任契約では、「作業をする」こと自体が受任者の義務である一方で、何らかの成果物を完成させることは受任者の義務ではないのです。

このように、委任・準委任とは異なり、「仕事の完成」が請負人の義務内容に含まれている点が、請負契約の大きな特徴です。

新築建物の所有権はいつ移転するのか

一般的な工事請負契約では、材料の大部分を提供するのは請負人である施工業者です。そのため、新築建物の所有権は、当初は施工業者に帰属するケースが大半でしょう。この場合施工業者は、注文者に対して代金の支払と引き換えに新築建物を引き渡し、その時点で施工業者から注文者に対して所有権が移転します。

工事請負契約書を締結する主な目的

工事請負契約書は建設業法により、作成が義務付けられています。書面化の義務が課されている理由は主に以下のような目的を達成するためです。

工事の内容・仕様等を明確化し、トラブルを予防する

工事請負契約書では、実施する工事の内容や、建築する建物の仕様などを細かく決めることになります。契約上の建物の仕様が不明確だと、注文者の想定とは異なる建物が完成してしまうおそれがあり、こうしたトラブルを予防するために、工事請負契約書の作成が求められます。

トラブルが発生した際のルールを決めておく

施工不備等により、注文者と請負人の間でトラブルに発展することも想定されます。そのため工事請負契約書では、トラブルが発生した際に適用されるルールを定めておくことも大切です。

訴訟などに発展した場合の証拠資料として用いる

建築請負契約書に注文者と請負人の間で合意した内容をすべて明記することで、合意内容を証明する証拠として、利用できます。

不平等な契約を結ばない

扱う金額が大きい建設工事では、認識の違いや工期の遅れなどでトラブルに発展する可能性があります。発注者側の有利な立場を利用し、不平等な契約を結ぶケースも少なくありません(※請負契約の片務性の問題という)。

受注側の不利な契約は、以下のような事例があります。

  • 代金を支払うタイミングが明確でない
  • 一方的な変更を指示され、損害賠償が請求できない
  • 不可抗力による損害負担を受注者に要求する

工事請負契約書では対等な契約を結ぶことに加え、問題が生じたときの解決方法をあらかじめ決めておくことが可能です。万が一問題が生じた場合でも、起訴などのトラブルを回避し、工事を円滑に進められます。

工事請負契約書を作成しない場合、行政処分の対象となります。

契約書を交わさない「口約束」でも契約は成立します。契約書を作らない場合でも、請負契約が無効になることもありません。

しかし、建設工事を受注するには、工事請負契約書を交わすことが建設業法で義務付けられています。工事請負契約書を作成しなかった場合には、建設業法第19条の違反に対する行政処分が下されます。

これは建設業の許可の有無を問わず対象で、国土交通大臣や都道府県知事の指導や、1年以内の営業停止処分を受ける場合があります。また、情状が重い場合、建設業許可の取り消し処分になる可能性もあるので、工事請負契約書の作成は必ず行ないましょう。