一人親方の「常用契約を締結する!」は、間違い?
一人親方として働く方のなかには決まった時間で決まった報酬をもらいたいという理由などから常用契約を結びたいと考えている方もいらっしゃるかもしれません。
一人親方として活動しているものの、「常用契約」の意味がいまいちよく分からずに悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
個人事業主である以上、契約方法について正しい知識を持つことが重要です。
一人親方が常用契約書(単価契約)を締結することは法律上、禁止されています。
なぜなら、建設業では建設業務を行う場合に労働者の派遣をしてはいけないということが「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」によって定められているからです。
常用契約とは?
常用とは継続的に雇うことを示す言葉ですが、一人親方における常用では、ある工事に対して「1人1日いくらで何時から何時まで人を出してくれ」という意味になります。
請負契約では「工事一式をこれだけの金額でやってくれない?」という意味合いに変わります。
この場合、納期までに工事を完了すれば、時間の使い方や仕事の進め方などに関する細かい指示は何も出されません。
納期内に頼んだ仕事を完遂してくれればそれで問題ないからです。
要約すれば、請負契約は期限内に仕事を完成させることが求められるが、常用契約では完成しなくても時間働けばそれでいいということになります。
「労働実態と契約内容のちがい」
一人親方はいわば個人事業主であり、従業員ではありません。
従業員なのであれば社会保険への加入が義務付けられていますが、一人親方は個人事業主ですからそれに該当しません。
しかし、一人親方が常用契約書を交わしているのであれば契約実態は雇用であり、従業員という扱いになります。
お気づきになられた方もいらっしゃるかもしれませんが、これははっきりいって矛盾しています。
一人親方が(個人)事業主であるにも関わらず、雇用契約を結んでしまっているからです。
本来ならば請負契約を結ばなければなりません。
これは「偽装請負」といって国土交通省においても議論がなされている問題です。
常用契約(単価契約)と請負契約の違い
常用契約は普通の労働契約と同じで、時間に応じた単価支払いのことを指します。これは日給、時給によって労働力の提供をするために雇われている状態なので、雇用契約となんら変わりありません。
これに対して請負契約は工事の成果に対して報酬が支払われるというものですので、上述のように常用契約を結んでしまうと偽装一人親方として認定されてしまいます。一人親方が案件を受注する際には必ず請負契約を結ぶ必要があります。
一人親方が常用契約を締結することは違法?
一人親方の偽装請負とは?
ここまでで、そもそも一人親方に常用契約書はおかしいことをお伝えしましたが、ここで気になるのが「偽装請負の何が問題なのか?」ということと、「偽装請負が発覚するとどうなるのか?」ということです。
まず偽装請負の何が問題かというと、事業主が社保逃れをすることで従業員の待遇が悪化してしまうことにあります。
労働実態が雇用契約でありながらも、一人親方として働かせることで請負契約を結んでいるように見せかけ、社会保険への加入義務を逃れようとしているのです。
国側も一人親方の偽装請負については問題視しており、建設業における環境整備を目的とした議論や対策が進められています。
もし検討会の内容について詳しく知りたい方がおられましたら、以下の資料をお読みになってください。
国土交通省:建設業の一人親方問題に関する検討会
続けて、偽装請負が発覚した場合どうなるのかについては、労働者派遣法に触れることで刑事罰の対象となり、罰金や事業停止命令などの厳しい処罰を受けることになります。
これを回避するためには契約関係を見直すことです。
具体的には、いま結んでいる常用契約を「(工事)請負契約」へと変更する必要があるでしょう。
事業主にとってはこれまで以上に社会保険などの負担が増えることになりますが、現在国が急ピッチで偽装請負問題への対策を進めています。
そのため、契約の変更を余儀なくされるのも時間の問題なのです。
もし心当たりがある場合は、時間に余裕を持って対処できる今のうちに契約を見直すことが望ましいでしょう。
労働者派遣法違反
一人親方が常用契約を結ぶということは、形式的に派遣のモデルで働くということになります。
ですがもちろん、建設業の現場作業員として派遣社員が使われることは禁止されています。罰則として1年以下の懲役、または100万円以下の罰金が課される他、事業者としてはブランドに大きく傷がつくおそれがあります。(参考:『労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準』)
違法就労による建設業許可はく奪リスク
偽装請負とは、実態が労働者の派遣や供給でありながら、形式上で業者間の請負契約や業務委託契約を締結していることをいいます。
具体的には、元請業者と下請け業者の間でAという現場の工事の請負契約を締結したとします。そして、Aの工事現場で働く下請業者のスタッフに対して元請業者のスタッフが直接的に作業命令をだしていることが偽装請負に該当します。
請負契約の場合には、元請会社や発注主にはいくら発注先の労働者であっても指揮命令権はありません。具体的な偽装請負の判断基準については厚生労働省『労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準』で確認できます。
偽装請負は、労働者派遣法による規制をかいくぐることになり、労働者雇用を不安定にさせる点や労災発生時の責任所在を不明確にする点などが問題になります。偽装請負を行っていると判断された場合には、労働者派遣法違反になり“1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金”に処される場合や、行政指導などの対象となります。
元請業者から仕事を受けることや、孫請け業者などに仕事を発注することが多い建設事業者は労働者派遣法についても充分な知識を身に着ける必要があります。
特別加入の申請手続
中小事業主 | 一人親方 |
労働保険事務組合を通じて「特別加入申請書(中小事業主等)」 を所轄の労働基準監督署長を経由して労働局長に提出し 、その承認を受けることになります。 | 特別加入団体を通じて「特別加入申請書(一人親方等)」を所轄の労働基準監督署長を経由して労働局長に提出し、その承認を受けることになります。 ※特別加入団体は全国に3173団体あります。(令和2年現在) |
お問い合わせ・お申込み
- ※元請工事のない事業所のみとさせていただきます。元請工事がある事業所はお受けすることができません。
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